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石巻の三代目社長、若い力で震災復興を目指す ~震災前に導入したBIG通販Pro CTIを使い、通販事業を再開~

ブランド鯖(サバ)と呼ばれる希少な鯖のひとつである金華鯖は、宮城県の金華山沖合で漁獲されます。

三代目猪又屋様(以下、猪又屋様)は、金華山や牡鹿半島を臨む港の目の前に本社と工場を構え、金華鯖やむきたて牡蠣、ワカメなどの海藻といった豊富な海の幸を加工、販売されています。

金華鯖は、期間を限定してまるまると太って脂が乗った一番おいしい時期にしか漁獲されないという幻の魚。

希少な金華鯖を、熟練した女性職人(姫)の手で丁寧に骨を取り除いて商品化される「金華プラチナ鯖 姫造り」は、猪又屋様の大人気商品です。

 

 

猪又屋様は屋号にもあるとおり、現在の代表で三代目。約50年間、創業者であるおじいさまの時代から、三陸の水産加工品をスーパーや市場などに卸し、順調に成長してきました。

しかし、時代によって商品流通のトレンドが移り変わり、スーパーや市場などへの卸と一部個人のお客様相手の商売に限界を感じ始めたそうです。

代表 猪又 一生様

「今の時代、メーカーとして通販に力を入れないわけにはいきません。また、ブランド価値のある鯖にマッチする百貨店のギフトなど、時代に合わせた新しい販路を作っていこう、というのが新しい猪又屋のスタートです。」そう語るのは、三代目代表の 猪又 一生氏。(以下 猪又様)

それまで通販は一部門でお得意様だけに限定してやってきた経験しかなく、右も左もわからない状態で新生猪又屋はスタートしました。

まず猪又様がはじめたのがアウトバウンド型の営業。とにかく電話をかけまくり、サンプルを送って商品の良さを知ってもらおうという作戦に出ました。

「いわゆる、なりふり構わないって言うんでしょうか。そんな感じでしたね。」と、猪又様は当時を振り返ります。

通販事業のスタート

懇意していた会社から通販のノウハウを伝授され、通販関連の会社を何社か紹介してもらい猪又屋様の通販事業が動き出しました。

そこで訪れた最初の転機は、テレビへの露出でした。
「スモールスタートした通販事業でしたが、やはり、テレビで取り上げられたのが一番大きかったですね。」と猪又様。

グルメ番組のお取り寄せコーナーに商品を紹介され、最初のブレイクが訪れます。

この時も商品の出荷が追い付かなくなるほどの好反応でしたが、この番組では放送終了後にテレビ局で受注を請け負い、猪又屋様では発送などの業務のみを行う、いわゆるテレビショッピングというスタイル。自社にコールセンターや受注システムを構築するといった特別な受け入れ体制は必要ありませんでした。

ほどなくして次の波が訪れます。
満天レストランという、地元の特産品にフォーカスして構成されるグルメ番組で金華鯖を取り上げられた際に、観光協会を通じて猪又屋様が取材を受けてテレビで紹介されました。

満天レストランでは、番組の最後に猪又屋様の連絡先が紹介され、その時は3、4回線だった同社の電話回線がパンクするほどの反響を得たと言います。

「運が背中を押してくれた感じですね。」という猪又様ですが、やはり何よりも猪又屋様の商品力が認められた結果なのでしょう。そして、新生猪又屋スタート時に掲げた、通販事業の拡大と百貨店ギフトの取り扱いという目標はあっさりとクリアしたのです。

一方で、ここまで短期間での通販事業拡大を予測していなかった同社は、テレビ放映時にはまだ対個人向けのシステムの構築がなされておらず、大変な思いをしたそうです。

テレビでのブレイクは外的要因が大きかったと振り返る同社ですが、もう一つ力を入れてきたのが物産展などの催事です。同社では物産振興協会に加盟し、定期的に全国の催事に参加してきました。

催事はネット通販やテレビ通販とは違い、実際にお客様と接して商品の良さをダイレクトに伝えられるというメリットがあります。

デパートなどの物産展で商品を購入頂いたお客様が、次は電話やFAX等で通販を利用され、後に大切な“お得意様”になるケースが多々あります。

このようなお得意様にパンフレットやDMなどのご案内を送り、継続的なおつきあいをしたいという猪又様の強い思いがあり、本格的な通販システムの構築を検討されました。

システム導入1ヶ月で震災被害に遭う

電話注文の多い猪又屋様に、地元のシステム会社はCTIシステムを提案。
猪又様もその提案を受け入れ、今後を見据えてCTI対応版のBIG通販Proを2011年2月に導入されました。

ちょうどその頃、テレビ放映直後の混乱があり、システムの稼働が少し先延ばしになっていました。テレビの反応も落ち着き、これから夏のお中元シーズンに向けて本格的に稼働準備をしようという矢先の出来事でした。

システム導入からわずか1ヶ月。東日本大震災の津波が石巻を襲います。

震災直後の様子(猪又屋様HPより)

震災発生から数十分後に津波が襲ったちょうどその時間、猪又様は一旦ご家族を避難させ、事務所で片づけ作業をされていました。すぐに事務所の屋上に避難し、津波が押し寄せては引いていく、その一部始終をただ茫然と眺めていたのだそうです。

猪又屋様の事務所は港の突端にあり、3方向が海に囲まれています。

「石巻の被害状況から、地元の方や当社に来たことのある方はほぼ全員が猪又屋さんは間違いなくだめだろうと思ったようです。海の目の前ですもんね。業者さんやお客様など、多くの方から電話を頂いたのですが、電話もつながらない状況でした。」そう語る猪又様。1階部分は全壊してしまいましたが、2階部分の事務所は奇跡的に無事でした。入れたばかりのパソコンや書類関係が残ったのは、不幸中の幸いでした。

工場の復旧から事業再開まで

沿岸部ではライフラインや携帯電話の復旧にも街なかより時間がかかり、2カ月ほどしてようやく電波が復旧しました。イリイからも何度か安否の連絡を続けていましたが、途中、猪又様のブログで無事を知り、復旧作業の邪魔にならぬよう連絡を待ちました。

2011年5月、ようやく事務所に続く道路が復旧して工事車両が入れるようになり、2011年9月後半から工場の改修作業が始まります。

「外観とかいいから、まず工場を直してくれってお願いしたんです。商品が作れないことには何も始まりませんからね。」(猪又様)

まず最優先したのは工場の復旧でした。当面の材料は東京に売って倉庫に眠っていたものを買い戻し、ひとまず商品加工を再開されました。

現在こそ漁獲量は震災前の状況に戻りつつありますが、震災直後は苦労の連続だったそうです。

「漁船は無事だったので、震災後割とすぐに漁には出られようなんです。でも、我々のようなメーカーや市場がまだ復旧できておらず、受け入れが出来ない状況が続きました。
今度はいざメーカーが受け入れ態勢が整えても、風評被害で水揚げ量が減少して。地震だけならまだしも、風評被害が一番きつかったです。」(猪又様)

テレビ放映でせっかくご注文を頂いていたお客様へも出荷できない日々が続き、結局、材料の確保、ラインの復旧、システムの再構築等諸々の準備で、商品を通常通り出荷するまでに10ヵ月ほどの時間を要してしまいました。

その間、ただ復旧作業をするだけでなく、震災前と変わらず積極的に催事に参加ました。

「もちろん、商品はありません。ただ、当社の商品を待ち続けてくださっているお客様に、現状を知ってもらおう、猪又屋を忘れないでほしい、ということを伝えたかったんです。」と猪又様は語ります。

そして、2012年1月にようやく出荷作業が再開となります。

一年ぶりにBIG通販Proが稼働

システム導入から約2年。震災、工場の復興を経て、BIG通販Proでの業務が始まります。出荷できる環境が整い、真っ先に催事で出会ったお客様やこれまでのお得意様など、 猪又屋様の復興を待ってくださっていたお客様への出荷業務からスタートしました。

震災前にすでに数百件のお客様情報は入力済みだったため、導入処理を省いた受注、出荷処理、佐川急便の送り状発行システム「e飛伝」との連携、入金処理とようやく一通りのフローを行える状態までになりました。

現在の通販業務担当者は2名。受注から出荷までの作業を2名で分散して行われています。

古くからのお客様は年配の方が多く、ネットよりも電話でのご注文が多いそう。猪又屋様では、電話注文をメインにとらえてCTIシステムを導入されているため、電話に出ると、お客様の住所、名前等の情報がすでに画面に表示された状態で受注処理を開始できます。

取材に伺った際、ちょうど「前回○○さんに送った商品をまた送りたい」というお客様からの電話が。担当者の本田様は、すでに表示されているお客様の情報から過去の履歴を参照しながら、実にスムーズに受け付けられていました。

受注情報はまとめて佐川急便の宅配便送り状発行システム「e飛伝」やヤマト運輸の「B2」にデータを送り、一気に送り状を印刷します。印刷された送り状と出荷依頼書をセットして、工場に出荷依頼をかける、という流れです。

「e飛伝」、「B2」側で付与された送り状の追跡番号は、BIG通販Proに取り込むことも可能で、お客様からの出荷状況確認等にも活用できます。

「手書きだった処理がすべて自動化され、業務がとてもラクになりました。」と担当の本田様。

他にも、BIG通販Proの導入効果として、入金管理も挙げられています。代引き取引に関しては、それぞれの送り状発行システムからデータを取り込み、自動一括消込をするため、入力ミスや手作業の手間がなくなりました。

今後の展望

震災からの復興を経て、ようやく通常業務に戻りつつある猪又屋様に、今後の展望について伺いました。
「通販事業にも力を入れて行こうと、祖父から受け継いだ会社を “猪又屋”としてスタートしてから3年が経ちました。

震災があったので1年間はほとんど何も出来ない状態でしたが、ようやく少し通販のノウハウが溜まってきたところです。

例えば商品カタログをお客様に送ったり、お中元、お歳暮の商戦前に予め前回の送り先の情報を印字した予約注文書を送って注文を促したり。やりたいことはたくさんあるんです。

BIG通販Proを使ってまだ日が浅く、今はお客様の情報を集めている段階ですので、十分にデータが溜まったら、BIG通販Proの機能を最大限に生かせるよう、色々とチャレンジしていきたいですね。」と猪又様は語ります。

通販業務だけでなく、自社のホームページを更新する、ブログで現状を伝えるといった広報活動や、全国に猪又屋ブランドを広めるための販促活動まで、代表である猪又様をはじめとした少数精鋭のスタッフのみなさんがオールラウンドプレイヤーとして日々活躍されています。

三代目代表の若い感性で、メディアの力というきっかけから通販業参入への大きなきっかけを掴んだ矢先の震災。しかし、震災復興を待ち望んだお客様もたくさんいました。

大きな試練を乗り越えた今、猪又屋様のチャレンジはこれからが正念場なのでしょう。